2023年10月から12月までに、テレビドラマとして放映されているものを録画して見てみました。
とっても面白くて、心が温かくなりましたので、おススメです。
あらすじ
大学1年生の辺清美(あたり きよみ)が主人公です。
清美は、料理を一口食べただけで、どの調味料がどれくらい入っているか、言い当てることができる「絶対味覚」という、すごい能力を持っています。
ですが、清美にも最大の弱点があります。
それは、人とのコミュニケーションが大の苦手ということ。
そんな清美が、少しでも自分の弱点を克服しようとして、定食屋「阿吽」でアルバイトを始めます。
「阿吽」の店主の中江善次郎(なかえ ぜんじろう)や、その息子の高校生の清正(きよまさ)、大学の友人、そして「阿吽」のお客さんと料理で関わっていくことを通じて、清美の中で何かが変わり始めます。
全11話ですが、どの回も、私たちの身近にある悩み・不安を扱っていて、親近感が湧きます。
そして、そうした悩み・不安に対して、料理を通じて、清美は向き合っていきます。
「一つ一つの工程を丁寧に行えば、おいしい料理はできる」
「阿吽」の店主の善次郎の言葉どおり、このドラマには派手さはありませんが、一つ一つ丁寧に描いてあって、ハートウォーミングという言葉がピッタリのドラマです。
アクション、スリリング、ミステリー、大恋愛で非日常感を味わうドラマもいいですが、「あたりのキッチン!」のような、人々の生活に根差したドラマも、本当に素晴らしいなと思いました。
キャスティングが素晴らしい
このドラマの素晴らしさの一つに、キャスティングがピッタリなことがあります。
特に、主役級の3人は、本当に自然な演技をされてました。
辺清美(あたり きよみ)を演じたのは、桜田ひよりさん。
このドラマで初めて桜田さんのことを知りましたが、コミュニケーションが苦手な清美を違和感なく演じられていて、すごいなと思いました。
目をキョロキョロさせたり、視線を合わせなかったり、瞬きが多かったりということも自然にされていましたし、清美がいつも浮かべている戸惑いの表情は、天下一品でした。
また、善次郎に渡された、真っ白な割烹の調理服を着させられた清美が、不安げな様子で立っている姿も、面白かったです。
このようなアイロンの効いた、びしっとした服を着れば、清美も、脇を閉めて両手を伸ばして足の横につけた気をつけの姿勢になるのかなと思いきや、清美の両手は足の横から離れて隙間が空いていて、不格好です。
細かいですが、この両手の位置が、清美の不慣れさと戸惑いをよく表現していて、面白いなと思いました。
次に、「阿吽」の店主の中江善次郎(なかえ ぜんじろう)を演じたのは、渡部篤郎さん。
言わずと知れた名俳優です。
渋さと強さの中にも、ほっとする優しさがあり、渡部篤郎さんでなければ、このドラマの味は出なかったのではないかと思います。
それはまるで、出汁の昆布のような、欠かせない、そして土台となる大切な役割です。
善次郎は多くを語りません。
語るべき時に語ります。
このため、言葉を発さずに演技をしなければならない場面が多くあります。
そこを渡部さんは無言のまま、うれしそうに両眉毛を押し上げたり、難しそうにしかめっ面をしたり、怪訝そうに右の眉だけあげたりなど、いろんな表現されていて、本当にすごいなと思いました。
そんな渡部さんの表情は、言葉より雄弁に、見ているものの胸に迫ってきました。
最後に、善次郎の息子の清正を演じたのは、窪塚愛流さん。
最近は、ドラマで見かけるようになった、若手俳優さんです。
彼の明るさ、若さ、素直さ、そして悩みが、本筋とはまた別の大切な支流となって、本筋に沿って流れたり、合流したりして、物語が展開していきます。
窪塚さんが持っている勢いが、このドラマに活力やスパイスを与えていたと思います。
心にグッときたセリフ
このドラマは、心にグッとくるセリフが自然に多く出てくるので、見ていて本当に心が温まりました。
その中でも、個人的に、特に心にグッときたセリフが2つあります。
一つ目は、清美が善次郎に対して、料亭に修行に行って学びたいという気持ちがあるものの、自分に対する自信のなさから悩んでいることを打ち明けた際に、善次郎が言った一言です。
「やってみたいという気持ちに勝るものはありません。どんな時も」
この一言で、清美は修行に行くことを決意します。
いろいろ考え、いろんな不安・悩みがある中で、一番大事にすべきことはなにか。
やってみたいという気持ちに勝るものはなし。
この善次郎の言葉は、人生を生きていく上で、大切にしたい言葉だなと思いました。
二つ目は、清正が高校卒業後の進路について、やりたいことが見つからず、善次郎から言われた「考えることから逃げてるんじゃないか?」という言葉に反発して、家を飛び出します。
夜の公園で一人、しょげて座っている清正を、清美が偶然見つけます。
清正は、自分は、料理も上手くできないし、なにもかもが中途半端だと悩みをこぼします。
清正は、つい最近までは、サッカーの部活に打ち込んできました。
そういう姿も、清美はずっと見てきました。
全力を出し、残念ながら負けてしまった高校最後の試合も終わり、今後の進路に悩む清正。
清美は清正に言葉をかけます。
私だって、大学に入っても、やりたいことがわからず、最近ようやく料理人になりたいと思ったくらいだからと。
そして、珍しく、清美は清正の目を真っすぐ見て、驚くほど力強く、こう言います。
「一生懸命考えて生きてたら、いろいろ中途半端になって当たり前じゃないのかなって」
清正はこの言葉に救われ、次の一歩を踏み出していきます。
一生懸命考えて生きてたら、中途半端になって当たり前。
中途半端は悪いことだと、脳に刷り込まれていた私にとって、このセリフは衝撃的でした。
このセリフは、一生懸命悩んで、迷いながらも、進んでいる私たちにとって、救いになる言葉だと思います。
この二つのセリフは、私たちが生きていく中で、光になってくれるものだと思いました。
このドラマのテーマ
清美は、料理で人とコミュニケーションをとりたいと願っている女の子です。
その人に合った料理を提供して喜んでもらうことが、清美の願いです。
「阿吽」の店主の善次郎も同じ想いを持っています。
ドラマでは店名「阿吽」の由来が語られることはありませんでしたが、お客さんと店主との「阿吽の呼吸」の中で、その人に合った料理を提供していくという想いが込められているのではないかと思います。
それからもう一つ。
このドラマには、「当たり前」のことを大切にしようというメッセージもあると感じました。
ちゃんと食べること、人が何を望んでいるか考えること、料理もそれ以外のことも一つ一つ焦らずに丁寧にやること、そんな当たり前のことについて、当たり前にすることで、確かなものが出来上がる。
コミュニケーションが苦手な清美は、当たり前のことを大切にしてやっていくことで、周りの人に想いが届いて、居場所ができて、新たな成長に向けて旅立っていきます。
辺清美(あたり きよみ)の「あたり」という名前にも、そのメッセージが込められているのではないかと思います。
日々の暮らしを丁寧に、当たり前のことを大切にして、生きていく。
日ごろの名もなき家事に、活力をもらったような気がしました。
おわりに
このドラマは、原作がマンガのようです。
私は読んだことがなかったのですが、全4巻とそんなに多くないようですので、機会があればマンガも読んでみたいと思います。